3月23日の投稿で、
既存の設備でどうしたらオンラインリモート通訳を実現できるか、と言う話を書きました。
訳出回線に電話を使うアイデア(というか実際やってた)を
紹介しましたが、今回は電話回線ではなく
オンライン会議システムを2種類使い分けるとどうなるか、
ドキドキの実体験を、お客様の許可を得てレポします。
-----会議のプロフィール-----------------------------
参加人数:MS Teams にそれぞれ自宅から100人以上
日数:2日間
会議本体の使用言語:日本語
日本語から英語の訳出:ウィスパリング同時通訳でSkype for Business
英語から日本語の訳出:逐次通訳、Teams
--------------------------------------------------------------
事前にTeams やSkype for Businessをダウンロードしておく必要があります。
何があるかわからないので、冗長性を持たせて(つまり予備のデバイスを用意して)、
すべてのデバイスに利用する可能性のあるアプリを入れ
動作確認をしておくのは、コロナ時代、絶対必要な作業と言えるでしょう。
今回は大規模かつ重要性の高い会議で、プレゼンター側も練習が必要だったので
リハーサルに通訳者も呼んでいただき、5分交代でシミュレーションしてみました。
(規定の打ち合わせ料金、この時は半日料金x50%)
発表する人は、それぞれ自宅からログイン。
プレゼンテーションや資料の動画などを共有し、しゃべります。
通訳者は2名。それぞれ自宅から入りました。
私はMac Book Air をイーサネット接続にして、Teams にログイン。
会議の内容を聞き、プレゼンテーションを見ます。
私は有線でつなぐためのケーブル類を今回買いましたが、
パートナー通訳者はWi-Fi接続で、特に問題なかったそうです。
ラップトップでは、Teams の他に
ノーマルのSkype のチャットを立ち上げ、
通訳者2名+顧客側の担当者の計3名で、連絡が取れるようにしました。
Teams は安定していて、
通訳業界で言うところの耳取り(原発言を聞くこと)は、非常にしやすかったです。
むしろ、リアル現場の場合、部屋の広さや床材の仕様、
個人の声の大きさ、マイクの使い方の習熟度などに
左右されて「聞きにくい」と感じることは多いですが、
オンライン会議の場合、
それぞれヘッドセットを使ってくれているので
(使ってない人はコロナ時代のマナーとして、ぜひ使っていただきたい。有線のを)
おおむね、聞きやすいと感じました。
あと、現場だと、メインのスピーカーのほかに
同じ部屋の中でボソボソおしゃべりする人がいたりして聞きにくいことがありますが、
オンラインだと一度に一人しかしゃべれないのも、良いです。
耳取りの機材ですが、
Mac Book Air のイヤホンジャック(普通のミニジャック)に
いつも通訳現場で愛用している、B&Oの耳掛け式ヘッドセットを使っていました。
軽いし、原発言も聞こえるし、
自分の声もパートナーの声も聞こえるので、使い心地良いですよ。
マイク内蔵ですので、英日の逐次はこのヘッドセットで集音していました。
もちろん、英語から日本語の逐次通訳をする時以外、
こちらのマイクはミュートにしておきます。
と言うわけで、耳取りは問題ありませんでした!
逐次も全然問題なしです。
大変だったのは訳出回線のSkype for Business。
それと通訳者ならみんな心配する、「交代とメモ出し、どうするの問題」です。
日英訳出用のSkype for Business は、
初日は手持ちのiPhone 8 plus で入りました。
残念ながら、「Skypeは不安定だ」と言う前評判通り、
勝手に切断されてしまうトラブルが続発。
初日の午前中は、パートナーがやっている間に私が何度か落ちました。
自分の番の時は落ちないでくれ、と祈りながら訳していましたが
やっぱり訳出中に落ちてしまって、パートナーに急遽交代してもらい、
iPhone をリブートして入り直す局面もありました。
初日の最後はダイアルアップ接続をしてみましたが、
それでも一回落ちてしまいました。
私が電話を切るボタンを間違えて押したのかもしれません。
タッチスクリーンだと、ボタンを押している感覚がないので、
間違った操作を気づかずにしてしまう可能性があります。
初日のSkype for Business があまりにもひどいので、
翌日は夫のデスクトップPC(Mac)に
Skype for Business をインストールして、そちらでやりました。
イーサネットが足りないので、Wi-Fi接続です。
二日目の方が安定していました。
私の訳出の音声の質も、二日目の方が良かったそうです。
それでも一度、通訳者2名ともが同時に落ちてしまって、
二人とも大慌てするインシデントが発生しました。
先に復旧できた方から訳出を再開しましたが、
多少(1〜2分?)、通訳音声がない時間があったはずです。
訳出は、iPhoneを買うとついてくるイヤホン+マイクで聞き、集音しました。
パートナーが訳している間は、左耳でTeams の音声を聞き、
右耳でSkype for Business の訳出を聞いていました。
交代して自分の番になったら、右耳のSkype 用イヤホンは外し、
両耳にB&Oの耳掛け式をかけて、両耳で耳取りができるようにしました。
イヤホンを二つ使い分けるわざ。もちろん初体験。
うまくやらないとケーブルがからまりそう。
二日目の仕事場の様子↑
パートナーは、iPad をWi-Fi 接続でSkype for Business につないでいたそうです。
落ちることが皆無ではなかったものの、初日の私ほどではなかったようなので、もしかしたら私のiPhone 側に、切断してしまう原因があったかもしれません。
せめて、OSやアプリを最新版にアップデートしておけば良かった、と思いました。
ヘッドセットは私と同様に、2つを使い分けていたようです。
最後に核心部。
交代はどうやったのか、についてです。
事前リハの時、Skype for Business のビデオをオンにして、
ジェスチャーで交代の合図をする、ということをしてみました。
でも結果としてうまくいきませんでした。
Skype for Business をiPhone/iPadで使うと、
話している人(今訳している人)の画像しか表示されないので、
次に訳す人にバトンが渡ったのかがわからなくて、訳を続けてしまいたくなってしまう(すると次の人は聞いているので、訳出を始められない)のが、最大の難点でした。
リアル通訳現場では、
「代わって」「OK」のような通訳者同士のやりとりは、絶対に声に出しません。
目と目で合図したり、大きく頷いたり、手で「どうぞ」としたり、いろいろあります。
個性が出るところだと思いますが、とにかく声は絶対出しません。
でも、この案件では、自分の訳出が終わったら、
Skype for Business に「お願い」と言うことにしました。
バトンを受け取る方は「お願い」が聞こえたら、訳し始めます。
先ほど、ラップトップではTeams に加え、
ノーマルのSkypeのチャットを立ち上げたと書きました。
ノーマルSkype は通訳者の連絡用なので、
ここにお互いの状況を打ち込んでいきます。「スカイプ落ちた」等。
この案件は15分交代と事前に決めていたので、
バトンを受け取る方は14分を少し過ぎたあたりで
“anytime” 等とチャットで送って、
交代の準備ができていることを知らせていました。
このタイミングで、Skype for Business のマイクのミュートを
私は解除するようにしていました。
何回か忘れて、ミュートのまま訳してしまったこともありますが、
すぐにノーマルSkypeのチャットで指摘してもらいました。
まとめると
14分過ぎ:通訳者A、Skypeチャットに、“anytime”
通訳者B:チャットを見つつキリのいいところまで訳して「お願い」と言って、Skype for Business のマイクをミュートにする。
通訳者A:自分のマイクをONにして、訳出を開始。
となります。
普通は15分だったら15分が過ぎてから交代するのですが、
この案件は15分よりちょっと早めに交代していたと思います。
それでもリアル現場では10分交代でやっていた案件なので、長めに頑張りました。
(もちろん交代の回数を減らしたいからです)
交代の合図を声に出すのは慣れないし、
通訳を聞いている人に聞かせてしまうのはすごく変ですが、
これは例えていうなら歌舞伎の黒子。見えても見ないふりをするのと同じで
「聞こえても聞かない」ということで、
ぜひお客様にはご了承いただきたいです。仕方ないので。
タイマーはお互い、いつものキッチンタイマーを使っていて、
たまにチャットで、いま自分のタイマーが何分何秒なのかを共有していました。
よくよく考えたら、ウェブブラウザ等でタイマーを立ち上げて、
Skype for Businessで画面共有すれば、
一つのタイマーを二人で見れたはずです。次回やってみたいと思います。
パートナーをサポートするためのメモも、
普通のSkypeのチャットで出しました。
実はこの案件は、同じ通訳者2名で何年もやってきた案件のため
内容的に不安はあまりなく、サポートはお互い最低限度ですみましたが
それでもお互い2回づつくらいは
聞き取れなかった単語をチャットに入れてもらって、助かったので、
やっぱりメモ出しはできるように設定した方がいいと思います。
チャットに入力するのは、キーボードの方が圧倒的にしやすいので
パソコンでノーマルSkypeを設定しておいてよかったと思います。
iPhone/iPadだったら、Skype for Business の画面を閉じて、
別のアプリを開いて、とやらないといけない。
今すぐ送りたいのに、煩雑すぎます。
聞くところによると、参加者全員共有のチャット(会議本体をやってる方)に
通訳者同士のチャットを入れている場合もあるようですね。
状況によってはそれでもいいのかもしれませんが、
この事例の会議では、参加者からプレゼンターへの質問を受け付けるために
Teams のチャットを活用することにしており、
それはしないで欲しいと言われました。
代わりに、ノーマルSkypeを別立てで通訳者連絡用に使ったらどうか、とご提案をいただいたのです。
Skypeじゃなくても、FBのMessenger でもなんでもいいと思いますが、
通訳者同士がある程度仲良くないと、難しそうですよね。
盲点だったのが、Teams のチャットに入ってくる質問です。
リアル現場ではQ&Aになったら
質問者が発言をし、それを通訳者が訳すわけですが、
チャットに入ってきた質問って、回答者は目で見ればわかるんですよ。
なので、必ずしも質問が音声として発言されないのです。
でもそれだと、日本語でチャットに入力された質問は
英語ベースの人に伝わらないです。
そこで、とっさにサイトトランスレーション(原稿を目で追いながら口頭で訳し上げていくこと)をしたり、
回答者が話し始めるタイミングによっては、サイトラする時間はなかったりしました。
なので、Q&Aの、Aの方しか訳せなかったのが、何回かあったと思います。
大きなフォーマルな会議をオンラインでやる際は、
必ず、回答をする前に、チャットの質問は読み上げるように
事前にお願いしておくといいかな、と思いました。
(お願いしても、浸透するまで時間はかかると思いますが…)
あと、二日目の午前中は、私の Teams の調子がおかしくて、
音は聞こえるしプレゼン画面も見えるのに
なぜかチャットウィンドウは開けませんでした。
そのため、午前中のQ&Aは耳の情報だけが頼りでした。
昼休みに入り直したら修復しましたが、やってみると色々な事象が発生するものです。
最後に、全体的な感想です。
通訳者は内容の勉強だけしていけばOK、
現場で音響エンジニアさんやコーディネーターさんが
がっちりサポートしてくれたプレコロナ時代とは違い、
通訳者もそれなりのITリテラシーと、サバイバルスキルが求められます。
Skypeが落ちたら、その場で即座になんとかするしかありません。
自分しかいないんですから。
この辺が理由でついていけなくなる通訳さんは、正直、いるだろうなと思いますし
通訳のやることが変われば、エージェントさんの役割も変わってくる気がします。
また、私がLANケーブルなどを購入したように、
自宅で使う機材に初期投資する必要もあるでしょう。
通訳業界全体に経験値が蓄えられて、
オンライン同通のやり方が常識として浸透するまでは、試行錯誤が続くと思います。
今現在は皆慣れないリモート同通を手探りでやっている状況ですが、
このオンライン黎明期、組みやすい相手とやるのは、かなり重要なポイントだと思いました。
仲良くさせてもらっている通訳さんが今回のパートナーだったから、
新しい試みも提案できたし、リハーサルとは別の日に個人的に連絡できて、
ノーマルSkypeの設定とテストチャットができたりした、と思います。
Mさん、ありがとう!!
通訳者にとって新しいことは、お客さんにとっても新しいです。
本来、大きな会場で一同に会してやりたかった今回の会議を
オンラインでやるのは、プレゼンをする方々にとっても新しかったし、
Teamsの使い方がよくわからなかったりしたと思います。
でも、国が緊急事態宣言を出すほどの状況です。
ここはむりやりにでも、DX(デジタルトランスフォメーション)を進めるしかないでしょう。
急な変化なのだから、通訳する側も通訳を使う側も、最初から完璧に習熟していなくても仕方ないです。
臆せずトライして、やりながら慣れていけばいいんじゃないかな、と思いました。
通訳者の巽美穂さんが書かれた、こちらの記事二本も
とても参考になりますので、ご紹介します。
あと、会社員をしている妹が、「字幕つけたら?」って言ったんですけれど
聞きながら、即座に訳を文字情報として画面に入力するのって、できるんでしょうか?
意味を伝えるという意味では、確かに訳出は音声ではなくてもいい気がします。
【後日追記(2020年11月) 】
その後、このお客さんではSkype for Business は使わなくなりました。(回線不安定すぎるため)
その代わりTeamsを2回線使うようになりました。
交代も、声を出して「お願い」というのではなくて、
Chronograph というオンラインタイマーで数字を見ながら無言で交代するようになりました。
でも、TeamsにはKudoというリモート同時通訳ツールが搭載された(日本市場ではこれからされる?)とのことなので、
Teams1インスタンスで通訳音声も通訳者同士の交代も、全てを完結できるようになる(あるいは日本でもすでに出来る?)と思います。
さらに、片方向逐次で対応するのではなくて、英日・日英双方向の同時通訳がリモートで出来るようになります。
パソコン2台も使わなくて良くなる!文明開化!
遠隔通訳関連の記事、ご好評頂いております!
こちら からリモート通訳の記事の一覧が見られます。
どうぞよろしくお願いします♪
Comments