JACI(日本会議通訳者協会)主催の第5回日本通訳フォーラムが昨日8月24日開催され、昨年に引き続き参加してきました。
こちらのイベントです↓
https://www.japan-interpreters.org/news/current-forum/
期待にたがわず、いい刺激をたくさん受けて帰ってきました。
基調講演は新崎隆子さん。
私は放送通訳の第一人者としてお名前を存じ上げておりましたが、研究者でもいらっしゃるということで、ご自身の行った量的調査のデータを示しながら、通訳者のキャリア形成についての面白いお話をしてくださいました。
一つ印象に残ったのは、逐次通訳の際、スピーカー(原発言者)にどれくらいの長さで切ってもらうのがいいのかというお話です。ヨーロッパでは5分などが標準とのことでしたが、では実際どれくらいだったら抜けたり間違ったりしないで正確に逐次通訳ができるのか、実験をされたそうです。そうすると1分以内だと正確に訳せる、それを超えると通訳者のスキルレベルにかかわらずどこかに歪みが生じることがわかった、とのこと。通訳の実務家が現場でスピーカーに聞かれた際は、この研究結果を根拠に「1分以内でお願いします!」と言える、ということでした。
確かに「出来るだけ短くするからね」と言ってくださる好意的なスピーカーは多いです。通訳も「長すぎないようにお願いします」とお願いすることは多いと思います。しかし長い短いは主観ですから、「1分」と定量的に言える、根拠となるデータもある、というのは画期的であると思いました。
(いざ蓋を開けてみたら話に熱が入って1分を超えることは多々ありますが、その際に通訳がコケたらこれを引き合いにディスクレマーを入れられますし・・・笑)
通訳実務ではなく、通訳研究という学術分野が存在するのは知っていたものの、正直あんまり通訳者にとっての必要性がピンときておりませんでしたが、このお話を聞いて認識を改めました。
つまり、
実務家(われわれ通訳)が、学術研究の成果を活用させていただく、というマインドが必要であるということ。
また、アカデミックな世界に実務上なにを研究してもらうのが必要なのか、訴えていく必要があるということ。
目の前の案件だけに没入して近視的になっていないで、科学的な見地から通訳という行為をとらえ、ユーザー(お客様)に提示していく必要があるということです。
そのためには現在ほぼないに等しい(と思います)アカデミアと実務の交流をもっと盛んにする必要があると思いました。
新崎先生もおっしゃっていたように、そうでなければ「専門職」としての通訳者の社会的立場が確立されません。
ついでに言うと、日本市場においてお客さんとの窓口であるケースが多いエージェントさんにも、同じマインドが求められると思いました。
午後には
山下のりこ「ところで、その日本語伝わっていますか?」
橋本佳奈「勇気を出して、ママ業から通訳業への道のりは」
ブラッドリー純子「アメリカ西海岸の会議通訳事情」
(敬称略)
の3セッションに出席しました。
それぞれ、
声を出す際の基本、
フリーランサーとして道を開いていくために必要なバイタリティー、
日本以外の市場での働き方、
について学ばさせていただきました。
(参加できなかったセッションは後日配信の動画をみようと思います。)
通訳者(特にフリーランスの)は一匹狼になりがちです。もちろん現場ではパートナーを組むことも多いし、仕事をくれるエージェントがいたりするわけなので、必ずしも一人で仕事をしているわけではありませんが、ぶっちゃけ「その日の案件だけ平和に回せればそれで良い」関係性の中から、何かを生み出したり、前に進む力は生まれないと思います。
もちろん気があった通訳さんとはその日1日の関係を超えて仲良くなることもあるわけで、それはすごくありがたく楽しいことですが、お友達が増えるだけでは通訳技術向上にも繋がらないし、通訳者のステータス向上にも繋がりません。(友達にあなた今の訳ヘタね、なんて言わないですもんね)
なので、ファウンダーのマイク関根さんその他志のあるJACIの運営側の皆さんが、おそらく手弁当で、このような盛大な会を企画運営してくださるのは非常にありがたいです。
残念なのは、イマイチJACIも通訳フォーラムも知名度が高くないみたいなので、(現場で通訳さんに聞いてみても「なにそれ?」っておっしゃる方がほとんどです)もっと裾野が広がって盛り上がると良いです。私もWOM(口コミ)の拡散に貢献していこうと思います。
通訳翻訳の学会も近日中にあるみたいです↓
https://jaits.jpn.org/home/nenjitaikai.html